デザインを“言葉にする”意味｜“説明できる”デザイナーが評価される時代

なぜ今「デザインの言語化」が必要なのか

デザインの現場では、いま“感覚”よりも“説明できる力”が求められています。
「なんとなく良い」では通用しない時代です。

クライアントは「なぜこの色なのか」「どうしてこの余白なのか」を理解したい。
社内では「目的に沿った提案かどうか」を判断する必要がある。

つまり、デザインを伝えるための共通言語がなければ、意図が正しく伝わらないのです。

AIの登場によって、“形を作ること”の価値は相対的に下がりました。
ChatGPTや画像生成ツールが誰でも一定レベルのビジュアルを出せるようになった今、
人間のデザイナーにしかできないことは——「なぜこのデザインなのか」を説明する力です。

言葉にできる人は、思考を再現できます。
思考を再現できる人は、信頼されます。
それが、AI時代の新しい“デザイン力”になっています。

デザインの言語化は、単なる文章力ではありません。
それは相手に理解してもらうための設計です。

たとえばクライアントワークでは、これらを明確に説明することで、相手の判断がスムーズになります。

社内レビューでも同じです。
非デザイナーの上司やマーケティング担当に対して、
「このトーン＆マナーは“安心感”を意図しています」と一言添えるだけで、
修正の方向性が具体化し、作業の往復が減ります。

さらに、ポートフォリオや展示の場では「言葉がある作品」が記憶に残ります。
理由はシンプルで、見る人が“理解できる物語”を感じ取るからです。

「ターゲットが抱える“静けさへの憧れ”を表現するため、淡いグレーを基調にしました。」

たった一文でも、作品に“意図”が宿る。
それが、「説明できるデザイン」が評価される理由です。

言語化は、デザインを「感覚の世界」から「再現可能な思考」に変える行為です。
説明できるデザイナーは、こんな共通点を持っています。

「なんか違う」と言われた時に、「線の太さ・余白・色味、どの要素が違うと感じますか？」と聞ける人は、自分のデザインを言語で分解できる人です。

これができる人・できない人では、特に修正対応のスピードが違います。

結果として、コミュニケーションの摩擦が減り、信頼が積み上がる。
言葉を持つデザイナーは、プロジェクトの“中核”に近づいていきます。

シーン	必要な言語化	具体例
クライアント提案	意図・根拠	「このフォントはブランドの信頼感を表すために選びました」
社内レビュー	方針共有	「この配置は、ユーザーの視線誘導を意識しています」
ポートフォリオ	制作背景	「制約条件の中で、最も優先すべき情報を再設計しました」
SNS・展示	世界観の共有	「静けさの中の緊張感をテーマに、余白を大胆に使いました」

デザイナーの仕事は、形だけを作ることではありません。
意図を説明し、他者に理解させる力も含まれています。

このスキルは、営業職で言う「プレゼン力」に近いものです。
見せ方と伝え方がセットで揃うことで、ようやくデザインが“届く”ようになります。

同じデザインでも、言葉があるかどうかで印象はまるで違います。
例を挙げましょう。

Aは「かっこいい」で終わるかもしれません。
Bは「なるほど、この色使いは孤独か」と、見る人が文脈を得ます。

言葉は、デザインの“見えないレイヤー”を可視化する道具です。

それがあるだけで、作品が「きれい」から「意味のあるもの」へと変わります。

言語化は、感性を縛るものではなく、感性を解放するもの。
相手の想像力を支援するための“橋”なのです。

デザインを言葉にしようとすると、
「自分はなぜこれを良いと思うのか？」という問いにぶつかります。

それこそが、デザイン言語化の醍醐味です。
自分の思考の癖、判断の基準、好みの傾向が浮き彫りになる。
つまり、言語化は自己分析のトレーニングでもあります。

感覚を言葉にすることで、
直感がどのような過程で生まれたのかを理解できるようになります。
これは、AIにも他人にも真似できない「自分固有の思考プロセス」です。

言葉にするとは、感覚を客観視すること。
感覚を客観視できる人は、次の作品をより高い精度で作れる。

このサイクルが回り出すと、デザインのクオリティは安定して上がります。

デザインの言語化とは、
「伝わるデザイン」を実現するための最後の仕上げです。

ビジュアルを作る力に加え、
なぜその選択をしたのかを語れるデザイナーは、
クライアントにもチームにも、そしてAIにも代えがたい存在になります。

「センスがある」よりも「説明できる」ことが武器になる時代。
それは感性を失うことではなく、感性を共有可能にする力です。

AIが形を作る時代だからこそ、
“考えを言葉にできるデザイナー”が最もクリエイティブになる。

あなたのデザインには、どんな言葉が隠れていますか？
それを見つけるところから、次の表現が始まります。